「中(なか)」と「内(うち)」にはそれぞれの歴史がある

日本語のsoto(外)の反対語として、naka(中)とuti(内)があります。似たもの同士のnaka(中)とuti(内)は、別々のところから来たようです。まずは、naka(中)の歴史をお話ししましょう。

naka(中)の語源

三省堂時代別国語大辞典上代編(上代語辞典編修委員会1967)では、日本書紀で「中」の読みがnaになっている例を挙げ、nakaという語はnaとkaからできた複合語ではないかと推測しています。この推測が正しいとすれば、nakaという語は、内と外の内を意味するnaと、場所を意味するka(arika(ありか)やsumika(すみか)のka)からできたのでしょう。

現代のフィンランド語では、-ssa/-ssäという接尾辞を用いて以下のように言います(フィンランド語のäはアとエの中間のような音で、öは口をオの形にしてエと発音する音です)。

彼は東京にいる。 Hän on Tokiossa.
彼はヘルシンキにいる。 Hän on Helsingissä.
Hän=彼は、on=いる、Tokiossa=東京に、Helsingissä=ヘルシンキに

Tokioに接尾辞の-ssaを接続してTokiossa(東京に)、Helsinkiに接尾辞の-ssäを接続してHelsingissä(ヘルシンキに)という形にします。要するに、接尾辞の-ssa/-ssäは日本語の助詞のni(に)のようなものです。

このように、現代のフィンランド語では基本的に-ssa/-ssäという接尾辞を用いますが、ごく少数の表現に昔の-na/-näという接尾辞が残っています。

彼は家にいる。 Hän on kotona.
彼は外にいる。 Hän on ulkona.
Hän=彼は、on=いる、kotona=家に、ulkona=外に

-ssa/-ssäではなく、-na/-näという接尾辞が使われています。この-na/-näという接尾辞は、フィン・ウゴル系にも、サモエード系にも認められ、ウラル祖語の時代から存在することが確実です。

日本語のkara(から)とmade(まで)の語源を明らかにしたばかりですが、助詞にも語源があります。日本語の助詞のni(に)にも語源があるし、同じように、フィンランド語の接尾辞の-na/-näにも語源があるのです。フィンランド語のkotona(家に)やulkona(外に)のnaはもともとなにを意味していたのでしょうか。

ここで筆者の注意を引いたのが、先ほど述べた内と外の内を意味した古代日本語のnaです。

※ひょっとしたら、この内を意味したnaはベトナム系言語(オーストロアジア語族)のベトナム語nhà(家)ニャーなどともなんらかの関係があるかもしれません(日本語のuti(内)とuti(家)を思い出してください)。

まず内を意味する*naという語があり、それが抽象化して、場所を表すフィンランド語の接尾辞の-na/-näなどになったのかなと考えました。この発想は、突拍子もない発想ではありません。例えば、英語のinを考えてください。英語のinは、insideとoutsideのように内と外の内を意味しながら、場所を表す前置詞としても機能しています。

*naが持っていた内という意味が薄れ、*naが単に場所を表す接尾辞になれば、kotona(家に)のような言い方だけでなく、ulkona(外に)のような言い方も可能になります。

場所を表すフィンランド語の接尾辞の-na/-näと同源の接尾辞は、いくらか化石化していますが、フィン・ウゴル系では、ウドムルト語-n、コミ語-ni/-n、マンシ語-n、ハンティ語-n、ハンガリー語-n、サモエード系では、ネネツ語-na、エネツ語-n、ガナサン語-nɨのような形で認められます(場所を表している場合と方向を表している場合があります)。

naka(中)のnaはウラル語族との共通語彙、kaもウラル語族との共通語彙(「あらかじめ(予め)」とは?を参照)ということで、話の筋がすっきり通りそうです。興味深いことに、高句麗語にも内を意味する*naという語があったようなので、別のところで詳しく取り上げます。上のウラル語族の一連の接尾辞を見ると、古代日本語の内を意味したnaだけでなく、助詞のni(に)も同じところに起源があるかもしれません。

次は、naka(中)よりももっとびっくりなuti(内)の歴史をお話ししましょう。

 

補説

助詞のni(に)だけでなく、助詞のno(の)も・・・

昔の日本語では、名詞Aと名詞Bを「AなB」という形でつないだり、「AのB」という形でつないだりしていました。ウラル語族、テュルク諸語、モンゴル諸語などに見られるように、名詞Aに含まれる母音に応じて助詞のna(な)を用いたり、助詞のno(の)を用いたりしていたと思われます。助詞のna(な)は使われなくなってしまいましたが、若干の語に組み込まれて残っています。例えば、manako(まなこ)は、*ma(目)とko(子)を助詞のna(な)がつないだものです。manako(まなこ)はもともと瞳(黒い瞳孔の部分あるいは黒い瞳孔と茶色い虹彩の部分)を意味していたと考えられます。

フィンランド語では、minä(私)→minun(私の)、koulu(学校)→koulun(学校の)、yhtiö(会社)→yhtiön(会社の)という具合に、所有を表す形には-nという接尾辞が付きます。この-nという接尾辞は、フィン・ウゴル系にも、サモエード系にも認められ、ウラル祖語の時代から存在することが確実です。所有を表すウラル語族の接尾辞-nと昔の日本語の助詞na(な)/no(の)も同源でしょう。ただ、遠い昔から抽象的な要素になっているので、もともとなにを意味していたのか推定するのは容易ではありません。

 

参考文献

上代語辞典編修委員会、「時代別国語大辞典 上代編」、三省堂、1967年。