現代のインド・ヨーロッパ語族の各言語では、「家」を意味する語はかなりばらばらです。それでも、家に関する語彙を詳しく調べると、印欧祖語では家のことをロシア語のdom(家)ドームのように言っていたことが窺えます。ラテン語domus(家)、古代ギリシャ語domos(家)、サンスクリット語damah(家)は同源です。驚くべきことに、日本語のtuma(妻)とtomo(友)は、インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類から来たようです。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

英語にhome(家)という語があります。英語のhomeはドイツ語Heim、リトアニア語šeimaシェイマ、ロシア語semjjaスィミヤーと同源です。しかし、英語homeとドイツ語Heimは「家」を意味する語ですが、リトアニア語šeimaとロシア語semjjaは「家族」を意味する語です。ちなみに、フィンランド語にはheimo(部族、種族)という外来語が入っています。「家」を意味していた語が「家の人、つまり一族、家族、いっしょに暮らしている人、配偶者」を意味するようになることがあるのです。日本語でも、「○○家」と言って一族を指したり、kanai(家内)と言って女性配偶者を指したりするので、それほど違和感はないでしょう。uti(内)とuti(家)もudi(氏)と無関係でないと思われます。

前回の記事で、インド・ヨーロッパ語族のロシア語usta(口)の類がuta(歌)、oto(音)、asobu(遊ぶ)のような不揃いな形で日本語に入ってきたようだと述べました。インド・ヨーロッパ語族のほうに発音のバリエーションが存在するために、このようなことが起きます。どうやら、インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類も、tum-、tom-、tam-という不揃いな形で日本語に入ってきたようです。

日本語のtuma(妻)は、現代では女性配偶者を意味していますが、もともと性別によらず配偶者を意味していた語です。今では形も意味もすっかり異なっていますが、tuma(妻)、tomo(友)、tami(民)は、インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類に語源を持ち、「いっしょに暮らしている人あるいは人々」を指していたと見られます。根拠は後続の二つの記事で固めます。tomo(友)とtami(民)は、家族や一族のような意味が消えて、単にいっしょにいる人、集まっている人を意味するようになったと見られます。tuma(妻)、tomo(友)、tami(民)のような不揃いな形は、日本語がインド・ヨーロッパ語族の様々な言語に接していたことを裏づけています。

上記の語に加えて、インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類から来たと思われるのが、昔の日本語のtomu(泊む)(現代ではtomeru(泊める))です。英語のhouseも、名詞として「家」という意味を持ち、動詞として「泊める」という意味を持っています。現代の日本語に「泊める/泊まる、止める/止まる、停める/停まる、留める/留まる」という語がありますが、もとの意味は宿泊だったようです。

インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類は日本語に大きな影響を与えており、上に挙げたtuma(妻)、tomo(友)、tami(民)やtomu(泊む)だけにとどまりません。この話を続ける前に、昔の人々が住んでいた住居について考えなければなりません。昔の人々が住んでいた住居というのは、竪穴式住居のことです。



補説 1

英語のhouseとhomeの違い

英語のhouseとhomeはどう違うのかと思われている方もいるかもしれないので、簡単に説明しておきます。

英語のhouseとhomeが類義語であることは間違いありませんが、houseは「建物」という意味が強く、homeは「本拠、家庭生活が営まれる場、家庭」という意味が強いのです。英語のhouseとhomeの違いは、日本語のie(家)とuti(家)の違いと同じではありませんが、少し似ているところもあります。日本語で「うちは、うちの子どもは、うちの主人は」などと言いながら自分の家族・家庭について語ったりしますが、このような使われ方をするuti(家)のほうがhome寄りで、ie(家)のほうがhouse寄りです。

補説 2

「ドア」だけなく、「戸」と「扉」も外来語だった

英語にdoor(ドア)という語があり、同源の語はインド・ヨーロッパ語族全体に広がっています。ゲルマン系の言語では、英語door、ドイツ語Türテュア、オランダ語deurドア、スウェーデン語dörrドル、アイスランド語dyrティールという具合で、昔の発音がかなり崩れています。昔の発音をよく保存しているのは、ロシア語dverjドゥヴィエーリ、サンスクリット語dvara、トカラ語twereなどです。

実は、日本語のto(戸)とtobira(扉)も遠い昔にインド・ヨーロッパ語族から入った語なのです。インド・ヨーロッパ語族のロシア語dom(家)の類が日本語に入ったことをお話ししましたが、それと完全に合致します。