言葉の意味はこんなに変わる!—世界の様々な事例

日本語のse(背)がベトナム系言語との共通語彙であること、そして日本語のsiri(尻)がウラル語族との共通語彙であることを示しました(「背(せ)」の語源「尻(しり)」の語源を参照)。

これらの語源が明らかになったところで、もう一つ付け加えたい話があります。それは、背比べの話です。二人の人間が背中を合わせて背を比べているところを思い浮かべてください。この場合、日本語の語法に慣れている者にとっては当たり前のことですが、se(背)は「うしろ側」を意味するだけでなく、「足裏から頭頂まで」も意味しています。実は、「足裏から頭頂まで」を意味するところから、「高さ」という意味につながります。

「背中、背、うしろ」を意味する語と「高さ」を意味する語の間には、密接なつながりがよく見られます。ちょうどよいところなので、ここで日本語のtakai(高い)、ハンガリー語のmagas(高い)、フィンランド語のkorkea(高い)に言及しておきます。

日本語のtakai(高い)

日本語のtakai(高い)のもとになっているtakaは、ネネツ語ではtjaxana(うしろに、うしろで)ティアハナ、フィンランド語ではtakana(うしろに、うしろで)、ハンガリー語ではdagad(高まる、盛り上がる、膨らむ、腫れる)のように現れています。takaは、日本語とハンガリー語では「高さ」を意味する語に現れていますが、ネネツ語とフィンランド語では「うしろ」を意味する語に現れています。

もともと「高さ」を意味していたのか、「うしろ」を意味していたのかということですが、地理的にウラル語族の言語と日本語の間に分布している言語を見ると、テュルク諸語のトルコ語dağ(山)ダー、カザフ語taw(山)、ウイグル語taʁ(山)タグやモンゴル語tag(山の最上部、ふた)のような語があるので、もともと「高さ」を意味していたと思われます。日本語のtakai(高い)と関係がある語は、大変広く分布しているようで、ウラル語族と日本語ではなく、もっと大きな枠組みで考えないと、出所はつかめないようです。

take(丈)やtake(岳)がtaka(高)の同類であることは言うまでもありません。take(岳)がそうなら、matutake(松茸)やsiitake(椎茸)のtake(茸)もそうでしょう。

ハンガリー語のmagas(高い)

「背中、背、うしろ」と「高さ」の密接なつながりは、ほかにも見出せます。

サモエード系の言語で「背中」を意味する語は、ネネツ語maxaマハ、エネツ語maxaマハ、ガナサン語məkuムク、セリクプ語moqalモカル、カマス語bɛgəlベグル、マトル語bagaで、これらの祖形は*makaまたは*magaと考えられます(ウラル語族の言語は、昔の日本語と同じで、語頭でbのような濁音を使うことができない言語でした)。

サモエード系の*maka/*maga(背中)は、同じ意味のハンガリー語hátハートゥやフィンランド語selkäセルカには結びつきませんが、「高さ」を意味するハンガリー語magas(高い)やフィンランド語mäki(丘)マキ(組み込まれてmäke-)には結びつきます。フィン・ウゴル系のほうで「高さ」という意味が生じたと見られます。

サモエード系の言語で「背中」を意味しているネネツ語maxaマハ、エネツ語maxaマハ、ガナサン語məkuムク、セリクプ語moqalモカル、カマス語bɛgəlベグル、マトル語bagaおよびその推定祖形*maka/*magaは、なんとも意味ありげです。まず、日本語のmagaru(曲がる)のmagaを思い起こさせるところがあります。そしてそれだけでなく、インド・ヨーロッパ語族のゲルマン系言語で「背中、うしろ、尻」を意味し、語源が不明になっている英語back、デンマーク語bag、スウェーデン語bak、ノルウェー語bak、アイスランド語bakなども思い起こさせます。

前に、ウラル語族で「肘のあたり」を意味した*kVnjäが、一方で日本語のkuneru(くねる)のkuneに、他方でインド・ヨーロッパ語族の英語のknee(膝)などに通じているようだという話をしました(簡単にはわからない「肘(ひじ)」の語源を参照)。インド・ヨーロッパ語族とウラル語族と日本語の関わり合いは簡単には解明できませんが、ウラル語族で「肘のあたり」を意味した*kVnjäといっしょに、「背中」を意味した*maka/*magaのことも記憶にとどめておいたほうがよさそうです。

とても古い東西のつながり 3

果たして、インド・ヨーロッパ語族の言語のそばに、足・脚のことを「kalk」と言う言語があったのか、研究してみましょう。まずは、長らく隣接してきたウラル語族に注目します。

フィンランド語には、kulkea(進む)(語幹kulk-)という動詞があります。この語は、サーミ語golgat(流れる)やハンガリー語halad(進む)などと同源です(フィンランド語とハンガリー語の間には、kala(魚)―hal(魚)のような音韻対応があり、ハンガリー語halad(進む)のhはkであったことが確実です)。どうやら、kalk、kulk、kolkのような形をもとにして「進む」という意味の動詞が作られたようです。足・脚のことを「kalk、kulk、kolk」のように言う言語があったのではないかと考えたくなります。

実際に、ウラル山脈の近辺で話されているコミ語にkok(足、脚)、ウドムルト語にkuk(足、脚)という語があります。ただ、ウラル語族の中でコミ語とウドムルト語は極めて近い関係にあり、このコミ語とウドムルト語以外の言語は足・脚のことをそのように呼んでいません。コミ語のkok(足、脚)とウドムルト語のkuk(足、脚)は、ウラル語族以外の言語から入った外来語と見られます。

インド・ヨーロッパ語族の言語も、ウラル語族の言語も、足・脚のことを「kalk、kulk、kolk」のように言う言語と出会ったようです。しかし、インド・ヨーロッパ語族の言語もウラル語族の言語も出会ったとなると、足・脚のことを「kalk、kulk、kolk」のように言う言語、正確には言語群は相当広い範囲に分布していたことになります。インド・ヨーロッパ語族とウラル語族が拡散する前に、ユーラシア大陸の北方に大きく広がっていた言語群があったのかと、新たな謎が生じます。

Eurasia(ユーラシア)というのは、Europe(ヨーロッパ)とAsia(アジア)を意味する語です。ウラル山脈はその境にあり、ウラル山脈の西がヨーロッパ側、ウラル山脈の東がアジア側です。足・脚のことを「kalk、kulk、kolk」のように言う言語の問題は、インド・ヨーロッパ語族とウラル語族だけを見ていても解決しないので、アジア側に目を向けることにします。

足・脚のことを「kalk、kulk、kolk」のように言う言語があったのだろうと思いながらアジア側に目を向けると、いきなり怪しい語が出てきます。

 

補説

「脚」と「骨」の密接な関係

英語のbone(骨)とドイツ語のBein(脚)が同源であること、古ノルド語のleggrが「脚」を意味したり、「骨」を意味したりしていたことなどからわかるように、「脚」と「骨」の間は意味がずれやすいです。人類の言語を広く観察すると、この傾向は非常に著しいです。確かに、脛のあたりを考えればわからなくはないし、私たちがイメージする典型的な骨も以下のような四肢の骨でしょう。

ラテン語にcalx(かかと)カルクスという語があったことはすでに述べましたが、もう一つcalx(石灰岩)カルクスという語もありました。のちに、calx(石灰岩)からcalcium(カルシウム)という語が作られます。ラテン語のcalx(かかと)とcalx(石灰岩)はこれまでずっと別々に考えられてきましたが、筆者はおおもとは同じではないかと考えています。インド・ヨーロッパ語族以外の言語に「足・脚」を意味したり、「骨」を意味したりするkalkという語があったが、インド・ヨーロッパ語族の言語には当然すでに「足・脚」を意味する語と「骨」を意味する語があったため、kalkは「足・脚」を意味することができず、「かかと」を意味するようになり、「骨」を意味することができず、「石灰岩」を意味するようになったというのが筆者の考えです(石灰岩の写真はりゅうか商事様のウェブサイトより引用)。

「脚」と「骨」の間で意味がずれやすいということを頭に入れておいてください。世界の言語の歴史を考える際に大変重要になってきます。