「腰(こし)」の語源

日本語のkosi(腰)の語源について考えましょう。kosi(腰)の語源を考えるにあたって重要なのは、腰は体の真ん中であるということです。私たちは上半身、下半身という言い方をしますが、どこで二分しているかというと、腰のところで分けています。真ん中と腰は深い関係にあるのです。

英語に真ん中を意味するmid-という接頭辞とmiddleという語があるのは、皆さんもご存じでしょう。英語のwaist(腰)は違いますが、スウェーデン語のmidja(腰)ミーズヤやアイスランド語のmiðja(腰)ミズヤは、上のmid-とmiddleと同源です。

インド・ヨーロッパ語族だけでなく、ウラル語族にも同じような例が見られます。

フィンランド語には、keski-という接頭辞とkeskeinenという語があります。真ん中を意味します。フィンランド語のvyötärö(腰)ヴィオタロは違いますが、コミ語のkos(腰)やウドムルト語のkus(腰)は、上のkeski-とkeskeinenと同源です。

ウラル語族では、kVsk-、kVs-(Vはなんらかの母音)という語根から「真ん中、中心、中央、中間、間」を意味する語が数多く作られています。フィンランド語のkesken(~の間で)やハンガリー語のközött(~の間で)コゾットもここに含まれます。そのような中に、コミ語のkos(腰)やウドムルト語のkus(腰)もあるわけです。

日本語のkosi(腰)は、明らかに関係がありそうです。マイナーな語ですが、車輪の中心部を意味するkosiki(轂)も見逃せません。

日本語では、koskiのように子音が続くことができないので、母音iが挿入されてkosikiになっているのでしょう。

日本語のkosi(腰)とkosiki(轂)も、ウラル語族の語彙と同じように、kVsk-/kVs-という語根から来ていると考えられます。重要なのは、このkVsk-/kVs-という語根が「真ん中、中心、中央、中間、間」を意味する語根であるということです。日本語のkosi(腰)も、身体部位を表す語ではなく、一般に真ん中を意味する語であったと見られます。

例えば、麺類などを食べて「コシがある」とか「コシがない」とか言いますが、このkosi(コシ)も、もともと中心部を意味していて、それが噛みごたえや弾力を意味するようになったと考えられます。

意外な例として、mikosi(御輿)も挙げられそうです。kosi(輿)という語に尊敬・畏敬を示す接頭辞のmi(御)が付いたのが、mikosi(御輿)です。kosi(輿)は、人や物を乗せて運ぶためのものでした。見慣れていると思いますが、典型的には以下のような形をしています(上から見たところです)

kosi(輿)という名称は、だれか・なにかを乗せる中心の部分を意味し、そこからこの搬送手段自体を意味するようになったと思われます。mikosi(御輿)は、現代では豪華なイメージがあるかもしれませんが、もともとは素朴な搬送手段でした。現代の豪華なmikosi(御輿)は、神道において、普段神社にいて祭の際に外に出る神霊を運ぶとされているものです。

日本語のkosi(腰)は、一般に真ん中を意味していた語が体の真ん中を意味するようになったと考えられますが、フィンランド語のvyötärö(腰)は、違います。vyö(ベルト)ヴィオという語があって、これからvyöttää(ベルトを巻く)ヴィオッターやvyötärö(腰)が作られました。フィンランド語のvyö(ベルト)の語源は、別の機会に論じることにします。