とても古い東西のつながり 2

インド・ヨーロッパ語族は非常に大きな語族で、その内部はいくつかの小グループに分かれています。現在ヨーロッパを大きく支配しているのは、ゲルマン系の言語と、イタリック系の言語と、スラヴ系の言語です。このうちのゲルマン系の言語とイタリック系の言語について、少し述べておきます。

ゲルマン系は、英語、ドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、アイスランド語などから成るグループです。イタリック系は、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ルーマニア語などから成るグループです。

イタリック系はもともと、古代ローマのラテン語とそれに近い言語(オスク語、ウンブリア語など)から成るグループでしたが、ラテン語があまりに強力だったため、ラテン語以外の言語は姿を消してしまいました。現在残っているイタリック系の言語、すなわちフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ルーマニア語などは、すべてラテン語が分化してできた言語です。なので、「イタリック系=ラテン系」という認識で大体合っています。

ゲルマン系の言語もイタリック系の言語もインド・ヨーロッパ語族に属しますが、両者の類縁関係はかなり遠いです。なかなか変わらない基礎語彙を比較しても、ゲルマン系とイタリック系の間には大きな違いがあります。

ゲルマン系言語

※ドイツ語Baum(木)とオランダ語boom(木)は、英語のbeam(梁、桁)と同源です。建物を建てる時に、柱は縦に立てる部材、梁・桁は横に渡す部材です。

イタリック系言語

※ラテン語では、aqua(水)、arbor(木)、manus(手)、pes(足)です。

例として、水、木、手、足を意味する語を挙げました。ゲルマン系内部の差、イタリック系内部の差に比べて、ゲルマン系とイタリック系の間の差がとても大きいのがわかります(ゲルマン系言語の「足」とイタリック系言語の「足」だけが同源です)。

現代のゲルマン系言語とイタリック系言語を見比べれば、基本的に両者の間の差は歴然としているのですが、注意しなければならないのが英語です。英語は、ラテン語とフランス語から強烈な影響を受けたために、ゲルマン系言語の中で一番ゲルマンらしくない言語になっています。

例えば、英語を学んだことがあれば、sound(音)、voice(声)、quiet(静かだ)、noisy(うるさい)のような語はおなじみでしょう。しかし、このような語もフランス語からの外来語(あるいはそれを変形して作られた語)なのです。ちなみに、song(歌)はもともと英語にある語ですが、music(音楽)は古代ギリシャ語→ラテン語→フランス語→英語と伝わってきた外来語です。

英語はイタリック系言語から特別に強い影響を受けたが、ゲルマン系言語とイタリック系言語の類縁関係は決して近くなく、何千年かさかのぼらなければならない遠い類縁関係であるということを頭に入れておいてください。

それでは、shoulder(肩)、leg(脚)、calf(ふくらはぎ)の考察に入ります。calf(ふくらはぎ)から始めます。

calf(ふくらはぎ)

英語のwolf(オオカミ)(古ノルド語ではúlfrウールフル)が、同じ意味のロシア語volk、ポーランド語wilk、リトアニア語vilkas、ラトビア語vilksなどに対応していることは、前に述べました。英語のwolfのf、古ノルド語のúlfrのfは、かつてkだったと考えられます。

では、英語のcalf(ふくらはぎ)のf、古ノルド語のkálfr(膝から足首までの部分)カールフルのfはどうでしょうか。どうやら、このfもkだったようです。

先ほど、ゲルマン系言語で「足」を意味する語と、イタリック系言語で「足」を意味する語を並べました。意味も形もよく一致していました。なので、ついついゲルマン系言語の「足」とイタリック系言語の「足」に目が行きがちです。しかし、これらの周辺に謎めいた語が存在するのです。

イタリック系のラテン語にはpes(足)という語がありますが、そのほかに以下のような語があります。ラテン語のcは子音kを表し、xは子音連続ksを表します。

calx(かかと)
calceus(靴)
calcare(踏む)
calcitrare(蹴る)

足・脚に関係のある語彙を支配しているkalk-という語根が見えるでしょうか(イタリア語のcalcio(サッカー)カルチョもこの語根から来ています。ciは、ラテン語では「キ」でしたが、イタリア語では「チ」のような音になりました)。

英語のfoot(足)に対応する語は、インド・ヨーロッパ語族の三大古典語にもばっちり出てきて、サンスクリット語ではpad(足)、古代ギリシャ語ではpous(足)(組み込まれてpod-)、ラテン語ではpes(足)(組み込まれてped-)です。インド・ヨーロッパ語族のおおもとの言語(印欧祖語)で足のことをこのように呼んでいたことは間違いありません。しかしながら、足・脚に関係のある語彙のところどころにkalk-という語根も見えるのです。足・脚のことを「kalk」と言いたいんだが、それはできないんだという空気がうっすらと漂っています。

日本語の話者は、asi(足・脚)という形がaruku(歩く)、humu(踏む)、keru(蹴る)と似ていないからといって、別になんとも思っていないでしょう。同じように、英語の話者は、foot/leg(足・脚)という形がwalk(歩く)、tread(踏む)、kick(蹴る)と似ていないからといって、別になんとも思っていないでしょう。しかし、これはちょっと考える必要があることです。歩く、踏む、蹴るのような語は、足・脚以外との関係を考えるのが困難な語です。

ひょっとしたら、インド・ヨーロッパ語族の言語を話していた人々は、足・脚のことを「kalk」と言う人々と出会ったのかもしれない、上の例はそんなことを考えさせるのです。