アルダン川、シベリアの秘境?

以下の写真は、シベリアを流れるアルダン川(Aldan River)の写真です(写真はWikipediaより引用)。

シベリアのごく普通の風景です。アルダン川は、中国東北部から北上したところにあります。アルダン川は結構大きな川ですが、もっと大きなレナ川に注いでいるため、世界的にはほとんど知られていません。

このような風景を見ると、水・水域を意味していた語がその横の部分、すなわち草、木、森、山、緑などを意味するようになるのがよくわかるでしょう。そこからさらに、「若い、新しい」という意味が生まれてくるので要注意です。奈良時代の日本人が赤ん坊のことをmidoriko(みどりこ)と呼んでいたことを思い出しましょう。

なぜ「若い、新しい」という意味が生まれてくるのでしょうか。それは、植物が最初は緑で、最後に赤、黄、茶などに変色するからでしょう。こうして、緑が早期(あるいは全盛期)を意味するようになります。

※ちなみに、常緑樹は葉を落とさないと誤解されることがありますが、常緑樹も葉を落とします。常緑樹は、落葉樹のように一気に葉を落とすことはありませんが、少しずつ葉を落としています。落ちた葉はやはり変色しています。

日本語のwakai(若い)はアイヌ語のwakka(水)のような語から来ていましたが、日本語のatarasii(新しい)はどうでしょうか。実は、atarasii(新しい)の前はatarasiで、さらにその前はaratasiでした。aratasi(新たし)、aratanari(新たなり)、aratamu(改む)などと言っていたわけです。

新しいことを意味するarataはどこから来たのでしょうか。先ほどのアルダン川(Aldan River)から窺えるように、遼河周辺で水のことをaltaのように言っていたと見られます。日本語ではaltaという形は認められないので、母音を補ってarVtaという形にするか、一方の子音を落としてaraまたはataという形にしなければなりません。日本語で新しいことを意味していたarata(新た)はここから来たのでしょう。水・水域を意味していた語がその横の植物・緑を意味するようになり、植物・緑を意味していた語が若さ・新しさを意味するようになるパターンです。

おそらく、水・水域に関係があると考えられるarasi(荒し)/aru(荒る)(abaru(暴る)、ikaru(怒る)、midaru(乱る)などが水から来ていたことを思い出してください)やaraɸu(洗ふ)も無関係でないでしょう。

ひょっとしたら、「頭(あたま)」の語源、仇(あだ)の意味に関する考察からの記事で扱った前・向かい・反対を意味するataも無関係でないかもしれません。廃れてしまいましたが、奈良時代の日本語にはatasi(他し、異し)という形容詞もありました。水・水域を意味していた語が岸を意味するようになり、岸を意味していた語が二つあるうちの両方、一方、またはもう一方(他方)を意味するようになるパターンを思わせます(実例については、「南(みなみ)」と「北(きた)」の語源、「みなみ」は存在したが「きた」は存在しなかったを参照)。

※aru(荒る)は自動詞で、他動詞はarasu(荒らす)です。tataku(叩く)とtatakaɸu(戦ふ)に関係があるように、arasu(荒らす)とarasoɸu(争ふ)にも関係があるかもしれません。

冒頭のアルダン川の写真のところで、水・水域を意味していた語がその横の部分、すなわち草、木、森、山、緑などを意味するようになることを改めて述べました。幸いなことに、高句麗語で木を意味していた語と山を意味していた語、そしてさらに谷を意味していた語が記録に残っています。前回の記事では高句麗語で水・川を意味する語について論じましたが、今度は高句麗語で木を意味する語、山を意味する語、谷を意味する語を見てみましょう。

 

補説 アルタイ山脈の語源

古代北ユーラシアで水のことをaltaのように言っていたとなると、気になるのがAltay Mountains(アルタイ山脈)です(地図はWikipediaより引用)。

Altay Mountains(アルタイ山脈)は、かつて鉱物資源が豊富だったところです。トルコ語altın(金(きん))アルトゥン、モンゴル語alt(金)、エヴェンキ語altan(金)などの語と関係があることは間違いありません。しかし、Altay Mountains(アルタイ山脈)のAltayの部分がもともとなにを意味していたのか、よく考えなければなりません。

例えば、英語にmetal(金属)という語があります。古代ギリシャ語のmetallonがラテン語のmetallumになり、ラテン語のmetallumが英語のmetalになりました。古代ギリシャ語のmetallonは、はじめ鉱山を意味し、それから(そこで採れる)金属を意味するようになった語です。

北ユーラシアおよび東アジアへの人類の拡散の中心となったアルタイ山脈地域の歴史を考慮すれば、まず水を意味するaltaのような語があって、その語が山を意味するようになり、さらに金などの金属を意味するようになったと考えるのが自然です。